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2016年5月24日 (火)

誰もいないドッグラン

「君は彼女に謝ると言ったな。
おれはオカシイと思っていたよ。君が謝るんだったら、おれは君に対して怒ろうと思った。その予定だったからな。へらへらして謝るはずじゃなかったのか?」
 
「そんなこと言っていたっけ?おれは。本心で謝る気がなかったからな。眠かったし謝りそびれたよ」
 
「結果的にはおれが誰に対して言っているかわからない宣戦布告を宣言して、眠そうな君と、君の嫁さんと彼女が付き合わされたようなものだ。おれが本当に謝るのか?って聞いたときあそこで君が謝らなかったから吃驚したよ、何のために集まったかわからない」
 
「君のあんな話はいつもここでしてるし、君はいつもそうじゃないか。
おい、もう一時を廻ったな。店を閉めよう、この糞みたいな店を。店じゃないけど」
 
「額縁な」
 
おれたちは外に行って、額縁の外のシャッターを下ろした。

五月というのに馬鹿みたいに暑かったが夜更けになると少しだけ涼しい風が吹いてきた。隣の店は閉まっている。それをなんとなく寂しい気持ちで眺めるおれはどうかしてると自分でも思うよ。

 

「なんにせよ」

もう相当この話題に飽きてきているはずの彼は少し矛先を変えた。

「君はしっかり仕事をしなくてはいけない。バイトでもいいんだが、そういうことじゃなくて自分自身のための仕事だ。当たり前だが、まず食うことだからな」
 
「正直言って、今のおれは本業のパスが素晴らしく無くなってしまった。
前までは底辺に這いつくばっていてもまだ仕事はあったんだが、本気でヤバイよ。何もない。練習して曲を作っているが、その時間も削ってバイトに精を出すしかない状況なのに、呑気に窓の外を見てる」
 
「まあ、自暴自棄になってないならいいんだ。ただ君は女に振り回される質を持っているからな、それはダメだ。」
 
いちいち耳障りなことを言う友人を持ったものだ。

 
「仕事をせずに酒や女で放蕩して薬で酩酊して、それでいい作品を書けるならそれでもいい。
 しかしそんなものが読みたいか?それなら40年前の作品を読んだ方がもっといい。
今からそれをやられてもただの焼き回しさ。」
 
 
「そういう奴らいたな。大好きだった。みんないなくなってしまったよ。それにおれにはできなかった。」
 
 
「そう、できなかったし、できなくてもいいんだ。
できなかったら書けないわけじゃない。
仕事やなにか自分の実人生と結びつけて、なにかが書けるかもしれない。
 それは天才には及ばないにせよ、秀才を越えるものにはなるかもしれない。
そういう意味では生活の危機感や責任てのは、悪くはないんだ。
 今はまだ表現できなくても、5年後、10年後を見据えたら自分の土壌や根拠になりうるだろう。
 そういう意味ではおれは…」
 

セブンクラウンをストレートで注いで彼は続けた。
 

「家族ってのも、悪くないと思っている」


 
★▼▼★▼★★▼★▼★▼★▼★▼★


 夜更け過ぎて家に帰った。
たった十数分だがなんだか無性に長く感じた。

 相変わらず、おれの恋は宙ぶらりだったし、とにかく女々しくて救いのない作品ばかりを書く自分を持て余している状況だ。

 それでもその中に、なにか光が見えるような思いになった。
気のせいなのか?たったの二杯で酔っぱらって気が大きくなっているのか?
東京の真夜中は明るすぎる。

 交差点では信号が明滅している。五叉路だからあっちが止まれば他が動き出して複雑怪奇な場所だ。

交差点の真ん中には、フェンスで囲まれたなにもない緑色の地面の緩衝帯があって、それがこの入り組んだ交通区画のインフラの中でどういった役割を果たしているかはわからない。
昨日、そこに車が停まっているのを見た。そんなことのために君は存在していたのか?
ドッグランのようなものを想像していた。おれはあの無用な緩衝帯のなかで走り回って遊ぶことを想像した。
ドッグラン、ってなんだか哀しみを感じないかい?そこじゃなくても走っていいんだぜ。鉄のカタマリどもは自由に走っていやがる。

「この街のインフラがおれを感傷的な気持ちにさせる」

と言ったミュージシャンの友達をふと思い出した。かつて一緒に旅を廻った奴だ。バイトのことや家族のことを題材にしたロックンロールを演奏していた。
彼はどうしているだろう?去年のツアーの時に神戸で会ったのが最後だった。もうバンドはしていないんだろうか。


 どれが誰にとっての光なんだ?この道は光が多すぎる。そしてその総てが機械的に役割を果たしている人工的な光だ。


    ▼▼▼
 

 もしかして今抱いている気持ちをいつか愚かしく思い出す日がくるかもしれない。

その時のために今ここに記そうと思う。

人工的な光だろうが、その光を見て進むことができる。おれたちのやっていることは真っ暗闇のドブさらいだが、必要とする人がいることも確かなんだ。


「未来?未来なんて、誰にもない。自分で作るんだ」


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