東京
おれは今、吉祥寺の天下一品でラーメン炒飯定食を食っている。明日からツアーだ。どうして家じゃなくてこんなところにいるかと言うと、レストランのバイトが終わった後、仕事上のトラブルで上がれなくなってしまって、終電を逃してしまったんだ。
明日から仙台にツアーに行く。バカなもんさ。バイトだから全てをブッチ切って早く上がればよかったのにな。なんていうかおれにはそうできなかったんだ。
そうできなくなった最大の理由は仕事終わりのシェフの最後の一言にあった。
「今期はみんなのおかげでいい売上を達成できた。お疲れさま。アルコールを一杯だけでも、飲もう」
その言葉を聞いてたアルバイトはみんな帰ってしまった。おれはその時点で仕事が終わってなかったし、もう御茶ノ水行きの電車も無くなりかけてる時間だったよ。
なあ、この時点でこの文章を読みたくない人は、もう読むのをやめた方がいい。
もう一度言うが、おれは明日からツアーなんだ。絶対に帰って家で寝るべきだと思うよ。現にそう思ってるし、部屋には残してきた育ちかけの豆苗が待ってるもんな。明日の朝そいつを味噌汁の具にして食おうと思ってたんだ。
シェフはけっこうワイルドな人だ。前にもこのblogで紹介したかもしれない。かなり荒くれた人生を送ってきて料理人になった人だ。だからってわけじゃないけど。なんとなく今帰るわけにはいかないな、そう思ってしまった自分がいたよ。
おれはツアーに出る度に旅先で酒を買ってくる。それは店の人たちが飲めるように、冷蔵庫の奥に隠してあった。まだ残ってる酒がある。丹後に行ってきたときの酒と、新潟に行ってきたときの山廃だ。とりあえず全部あけたよ。
もう閉店後のレストランにはおれとシェフしかいなかった。むちゃくちゃなトラブルが昼過ぎにあって、けっこう精神的にはしんどかったけど、シェフと飲む酒は旨かった。今家に帰って、もう1フレーズ練習すべきかもしれない(多分そういうことではない)。今家に帰って、物販を何か手落ちがないか、もう一度チェックすべきかもしれない(ちょっと、いやかなり遅いけどな)。何よりももう何分かでも多く眠るべきなのは間違いない。
それでもおれはしなかった。クソが。インディーのミュージシャンてなんなんだろうな?毎分毎秒音楽に賭けたいが、そんなおれは今、今日もアホ面下げてバイトしている。にも関わらずおれはあんまり仕事ができない。そういう問題なのか?友達の割りと成功しているミュージシャンはバイトなんかできなかったよ。飲食店で働く社員たちをゴミを見るような眼で見て、自分は時給をもらって仕事をサボり、そうして音楽で成功していった。そういう奴は何人も知っている。
でも彼らは出会っていない、普通の場所に普通の人がいて、何年も繰り返して少しずつ上がったり下がったりしながら突然人生を終える。知ったような顔をしているが、誰もまだ人生に出会っていない。
独りよがりの音楽はやりたくないって思うけど、戯言のような人生の反映されてない音楽をやってるのか?そうじゃない、何度も自分に言い聞かせる、それを決めるのは聴いたひとたちだ。
どんな場所にも、今を生きている人間がいて、その人の生きている時間をちょっとだけわけてもらいながら音楽をやっている。
★
おい、今おれは始発で中央線に乗って家に帰るぜ。家に帰って物販の用意をして、少しだけギターに触って、寝るのは高速バスの中にするさ。シェフと飲む酒は旨かったよ。彼は荒くれものだけど倫理観は強いんだ。音楽が好きじゃなくてもいいし、万人に受ける音楽も作れないから、逸物持ってる人が家に帰ったときに聴きたくなるような音楽をやりたい。そういう音楽は足りてないからな。ブルースだよ。
今夜は、仙台のHideawayという店の周年のイベントに出る。誰かの店の周年に出られることは嬉しいさ。毎日が積み重ならないとそういうイベントはできねえもんな、ハレの日に呼んでくれてありがとう。
秋田のサイファーで出会った宮城のMEGALOMANIAというクルーのMC、レボ君がおれのライブに参加してくれる。
楽しみだ
行ってきます。
もう少しで家に着くと思った矢先で水道橋駅の線路に人が転落して電車が止まった。
皇居の堀には桜が咲いている。
朝の上りの電車は何かを憎んでいるかのように宙をギョロギョロ見回すか、何かに祈るように目を瞑る人たちがいる。
何処に出かけるんだろう?電車はまた動き出した。
秋葉原を過ぎた辺りでビルに乱反射した朝陽が見える。
朝陽を観てたら間違って乗り過ごして、東京まで来てしまった
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