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2012年12月31日 (月)

交差点のレストラン

28日、金曜日。
 
交差点のレストランの最期の日。
 
おれはこの一週間、毎朝オムライスを作るために早めに出勤していた。
 
今日もオムライスを作りに早めに来たが、ホールで働いている声優のMが遅刻していたのでトイレ掃除からやった。

年中、店の前にホームレスが居着いていて奴を店の前から追い出すのが日課だったが、奴は今日はいなかった。
奴は神保町をずっと巡回している。
先々週、すずらん通りの東京堂書店の前で見た。

渡り鳥のように季節で寝床を変えるのだろうか。
 
オープンする。
今日のランチも常連はなかなかやって来ない。
 
遅刻しているMからは全く連絡が無い。Mは遅刻が多くて最期まで自分のキャラ付けを律儀に守ったようだ。
Mの紹介で入った、Mと同じ歌のユニットをやっているIが怒っていた。
 
舞台脚本家のNが出勤。

一番下の後輩、バンドマンのCが彼女を連れて客としてやってきた。

Cは19歳。そしてCの彼女は女子高生だ。女子高生と付き合っているという理由でCは皆から反感を買っていた。
 
ガチャーンという音がして、Cがグラスを割りやがった。
最後までこれだよ、という罵声が聞こえる。
 
Mも遅刻するし、Nは激怒している。
 
皿やポット、使わない大鍋などを整理しながら昼の営業を終えた。
 
     
        ★

 
まかないはリガトーニだった。リング状になってるパスタだ。
まかないでリガトーニが出てきたのは初めてだった。
 
Cはランチの時間中、4時間近く彼女と居座った。
若いカップルとは恐ろしいものだ。
皆がアホとかボケとかノロケ!とか言って怒った。

Cの彼女は予定があるらしく帰った。女子高生は忙しいのだ。
Cは対照的にヒマらしく、ディナーまでいることになった。

やはりアホとかボケとか言われていた。
 
Cは、この店に入った当初のおれとKZKと同い年だ。
 
そういえば、昨晩おれとKZKが頼んだバルポリチェッラをCがバックヤードで抜栓しようとして、コルクを折ってしまったらしい。

他の先輩がフォローしたのか、おれたちのテーブルに来る頃には何の問題もなかった。
 
フォローなんかしないで、おれとKZKの目の前でコルクを折ったら、KZKは大喜びしただろうに。
 

      ●
 
午後5時半からディナーの営業。
 
全然客が来ない。
 
そしたらハットを被った怪しげな人物がやってきた。
 
かつて働いていたBさんが現れた。
 
おれは数年ぶりの再会だった。
 
Bさんはバングラデシュ人。
同じくバングラデシュ人であるSさんと長いこと争っていて、ある日ぷっつりと辞めた。
 
Sさんはそう言えば、店を辞めた後、神保町に自分の店を出したが一年もたず、潰して、逃げるようにして消えていった。
 
Bさんによると、Sさんは今は横浜にいるらしい。
 

       ●
 

 ディナーにもようやく客が来た。
 うちのバンドメンバーが来てくれた。とても嬉しい。
 
 ホールでメンバーと話し込んでいたら、アルバイトの女子大生のKに働けと怒られた。
 
役者のTがCに説教している。もっとちゃんも働かなくてはダメだって。
 
みんながんばってくれい!
 
       ★

 交差点のレストラン、最後の客はうちのバンドメンバー(驢馬の壱くん)だった。カルボナーラを喜んでくれたようで嬉しい。
 
 従業員全員で最後のお客様を見送った。
 

 営業が終わって、片づけをしたあと、店の食材を全部料理した。
圧巻だった。
 
パスタもピザも肉も、全部料理した。
 
それをみんなで大いに食って、飲んだ。
 
 
おれは「交差点のレストラン」という曲を作ってみんなに披露した。
 

 
「交差点のレストラン」
 
階段を駆け上って今日も朝が始まる
電気をつけてゴキブリたちにおはようを言う
交差点は眩しくてぼんやり欠伸をする
ホームレスを追い出してopenの準備を始める
 
交差点にあるレストランからずっと流れてゆく車と人々を見ていた
 
フライパンの振りすぎでシェフは腱鞘炎
バイトがドタバタ駆け回って賑やかな店内
ああまた誰かがグラスを割ったな
皿の数もずいぶん少なくなったな

イタリアに行くって奴はどこに行ったんだい?
バングラデシュ人たちはどこに行ったんだい?
別の仕事を見つけたのかい?
夢はつかめたのかい?
おれもそろそろここから出て行かなくちゃ
 
交差点にあるレストランからずっと
足早に歩いていく人々を見ていた
 
交差点にあるレストランからずっと
割れてゆくグラスと君を見ていた
 

いつかは思い出そうとしても忘れられない日が来るかもしれない
自分の手元にある人生の時間を切り売りするのはどんな気分だい?
 
ねえ、今夜は使い果たそう
ワインをあけてパスタを全部茹でてしまおう
時間じゃない金じゃなくて今を楽しもう
交差点を渡っていった人々を祝おう
all right
 
 
交差点にあるレストランからずっと
足早に歩いていく人々を見ていた

交差点にあるレストランからずっと
右翼の街宣車の流す軍歌を聴いてた

交差点にあるレストランからずっと
スーツを着た昼休みたちのランチを見ていた
 
交差点にあるレストランからずっと
通りを支配する爺さんたちの戯言を聞いてた

交差点にあるレストランからずっと
未来のない若者が古本探すのを見ていた
 
交差点にあるレストランからずっと
流れてゆく時間と君を見ていた
 

       §
 
 交差点のレストランは閉店した。
 食べたかったと言ってくれるたくさんの人、関わったのに知らせられなかったたくさんの人には申し訳ない。
 
 おれは最後にC6卓(半地下席の奥)にかけてあった絵をもらった。
 
マーク・ロスコーの絵である。
 
 交差点のレストランに入った十代の最後、アメリカを旅して半死半生の思いでロスコーチャペルにたどり着いてマークロスコーの絵を見た。
 
なぜか交差点のレストランにもロスコーの絵がかけてあって、おれは七年間ずっと額縁の水平を出してきたのだった。

ロスコーの絵は窓のように思える。
 
このロスコーが、交差点のレストランで起こった出来事をずっと見ていたのだ。
 
 
       la
                         f.i.n.

 
 



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